河元智行さん(まくら株式会社代表取締役)
ネットでまくらが売れるわけがない!そんな常識を覆した注目の企業家。
まくらのネット通販でいま話題の会社がある。その名も「まくら株式会社」。何ともストレートな社名のこの会社を経営するのが、本学商学部OBの河元智行さんである。
起業の背景、その経営方針、大学時代の思い出などを語っていただいた。
まくらは自分のいつもの布団で試さないとわからない!
熾烈なネット通販界で、まくらだけで勝負し成長を続けるまくら株式会社。
取り扱うまくらの点数は約800点、直営で18もの通販サイトを運営する。
まくらに特化した展開の背景には、河元さん自身の苦い経験があったという。
「20代の頃、いろんな枕を買って試したが、自分に合うものが見つけられず、逆に首を痛めることになってしまって」。
そのとき、達した結論が「まくらは自分の布団で寝て試さないと、わからない!」ということ。そうした経験をもとに同じ悩みを抱える人がいるだろうと、まくらの情報ポータルサイトを自ら立ち上げたところ、人気サイトに。サイトの掲示板に多くの人が集まり、寝具メーカーからもリリース情報が寄せられようになった。その年(2003年)のニフティ「ホームページグランプリ」で準優勝。この賞金を元手に起業に踏み切った。
“インターネットでまくらが売れるわけがない! お店で触ってみないとわからないはず”。そんな世間の常識こそ、河元さんの勝算だったいう。
「お店で触っただけでは絶対にわからない。実際に寝てみないと。家で寝てみて合わなければ、返品してもらって構いません」。
20日間有効の返品サービス。割引なしの定価販売。在庫レス。創業以来、この3つを崩さない。「“安眠”の前に“安心”を売ること」。それが、まくら株式会社が提供する付加価値であり、成長の原動力だ。
創業当時は銀行に融資の相談に行っても、まったく相手にされなかったと笑う河元さん。
「まだまだ成長段階。もっとまくらでできることがあるはずです。まくらバカですからね、私(笑)」。
“我孫子”がつないだ3代にわたるネット通販会社の起業
<大学時代は勉学よりも、アルバイトとサークル活動に明け暮れたという河元さん。「唯一、授業で覚えているのは椎名先生の『財務諸表論』ですね」。
測量のアルバイトは時給が高かったこともあって、熱心に続けていたという。このアルバイトで不動産のことを知り、独学で宅地取引士資格を取得した。
「お世辞にも大学で勉強したとはいえませんが、アルバイトやサークルでの交友関係や出来事をとおして、自分から『知りたい』という知識欲が出てきました。やらされるのではなく、経験の中から必要を感じて、自ら学ぶことの大切さに気づくことができたと思います」。
我孫子市寿で創業したが、実はこの場所は学生時代に世話になった測量会社の2階で、オーナーのその測量会社が家賃2万円で貸してくれた。この地にまつわる面白いエピソードがある。
順調に売り上げを伸ばし、社員も10名を超えた頃、さすがにこの場所が手狭になり、我孫子市東我孫子に移転。このとき、社員の一人が「自分はここに残って、お風呂グッズの通販サイトを立ち上げる」と起業。さらにその通販サイトも順調に成長し移転。このとき、また社員の一人が「自分はここに残って、キッチン用品の通販サイトを立ち上げる」と起業したという。測量会社の2階から3代続けてネット通販会社が立ち上がった。
「“我孫子”という字は、『我』『子』『孫』の3代なんですよね。この地から3代にわたって起業したのは感慨深いですね」。
まさに我孫子の「トキワ荘」。ちなみにこの3代にわたる物語は、11月に中央学院大学で講演する予定だ。
22世紀のまくらに向け気づきをビジネスに変える
まくら株式会社の特長は、極力、在庫もたないことだ。注文が入ってから、メーカーに発注を出し、納品され次第、お客さんに発送する流れだ。無駄な在庫を減らすことで、在庫処分の割引セールをやる必要がない。
「無駄な在庫、無駄な売り上げをあげないことが鉄則。お金もなくスタートした会社なので、確実にキャッシュがまわるやり方を模索しました」。
早い時期から社内にシステム開発部門を設けたのも、河元さん流の経営術だ。それまで売り上げが伸び、業務量が増えるたびに社員を増やしてきた。しかし、忙しさは変わらなかった。
「マンパワー頼りではいつまでも変わらない。自動化できる部分は極力自動化して、人がやる仕事を減らしていこうと」。
社内の業務システム開発のためにプログラマーを雇い入れ、業務の効率化に取り組んだ。現在、社内で稼働している業務ツールは133種類に及ぶという。中でも自動予測発注システムは、在庫レス経営の肝となるシステムである。他のネット通販会社にも評判となり、ASPサービスとして、現在、180社に提供している。経済産業省の「IT経営力大賞2012」の優秀賞も受賞した。
創業以来、増収黒字を続ける河元さん。創業時は銀行に融資を断られた。軌道に乗り始めた頃、取り込み詐欺に遭った。主力取引先メーカーが廃業したこともあった。
「でも、振り返ると、そうしたことに面白みがあって、自分にとって力になったと思えます」。
気づきをビジネスに変える。これこそが起業家に求められる力だ。
“まくらバカ”を公言する河元さん。
「まくらは、人間に睡眠する習慣があるかぎり、なくならないはずです。100年経ってもあるはず。まくらは、目鼻口耳がある人間の一等地に一番近いところにあるアイテムです。22世紀のまくらは、朝起きたら、その日の予定を教えてくれたり、情報のプラットフォームになっているかもしれません。ワクワクしますね」。
●プロフィール
まくら株式会社 代表取締役。1975年我孫子市生まれ。我孫子生まれの我孫子育ち。高校時代はオリジナルで選曲したオムニバステープを作り、クラスメイトや先生、他校の生徒に販売。その売上金で予備校に通い、中央学院大学へ。2004年、まくら株式会社を設立、2012年、経済産業省「IT経営力大賞2012」優秀賞受賞。現在、18店舗運営。