長尾治人さん (株式会社とんでん 代表取締役社長)

(2014-10-22)

椎名前学長との出会いが生き方を知るきっかけに。

nagao01北海道生まれの和食レストランのチェーン店として、いまや関東でも95店舗を展開する「とんでん」。
家族3世代が楽しめる豊富な和食メニューが魅力で、一度は利用された方もいらっしゃるのでは。
同社の社長として8年前から経営の舵を執るのが商学部OBの長尾治人さんだ。父・治氏が創業し、小さい頃から経営者への道を嘱望された長尾さん。しかし、青年時代は家業を継ぐことに抵抗があり、父への反発心もあったと振り返る。
「へそ曲がりだから(笑)、父の会社には興味なかったですね。理数系が好きで、大学も本当は東京理科大に行きたかった(笑)」。
中央学院大学に入学したのも、まずは北海道を出るため。「父の目から逃れて、隠れて勉強して翌年、東京理科大を受験しようと本気で思っていました」。
そんな長尾さんが、半ばしぶしぶ通った中央学院大学のプレゼミで出会ったのが椎名市郎前学長だった。その1回目の授業を長尾さんは今でも鮮明に覚えている。
「『天に唾しても、自分にかかるだけだ!』と言って、いきなり上を向いて唾を吐いて、本当に自分の顔で受けたんです。すごい先生が大学にはいるなと(笑)。と同時に目が覚めた気がして」。
強烈な出会いに惹かれ、以後、研究室にもときどき遊びに行くように。
「研究室に行くと、本のリストを紙に書いて渡してくださって。『お前に本をあげても読まないだろうから、このリストの中の本を買って読め』と(笑)。『第三の波』や『東京裁判』など、いろいろ読みました」。
いつしか理科大受験の計画は消え、経営研究室にも所属し、独学で財務も勉強した。
「2年、3年のときはとにかく真面目に勉強しましたね。5限までびっしり履修して、全科目とも一番前に座って、ほとんど皆勤賞。あのとき椎名先生との出会いがなかったら、そうはならなかったと思います。今でも何かの問題に直面して、判断しなければならないときに先生の『天に唾する』という言葉が蘇ります。誰か陥れようとしても、必ず自分に戻ってくる。生き方を教わったこの言葉との出会いに今でも感謝しています」

飲食は文化。とんでんの文化を守るため社長に就任。

札幌出身の長尾さんは、“関東の夏”に苦労した思い出も。
「もう、暑くて(笑)。最初は柏のアパートに住んでいたのですが、通うだけでもしんどくて。2年次から我孫子に引っ越しました。大学に近くなった分、真面目に勉強するようになりました。休講のときもウチに帰らず、図書館で自習していました。当時、学食はまだプレハブでしたけど、図書館は新しくて冷房完備。よく利用していました」。
経営研究室では、顧問だった故・生田富夫元学長に酔って絡んだという逸話も。
「同期が4人居て、僕以外みんなお酒が弱くて。それでも先輩たちが勧めるものだから、『僕が代わりにみんなの分を飲みます!』と言ってしまって(笑)。大瓶ビール1ケースを空けたところで無事解放されたんですけど、その後で生田先生に散々グダ巻いたらしくて(笑)。全然覚えてないですけど」
恩師との数々のエピソードを懐かしそうに語る長尾さん。かけがえのない青春の1ページが確かに中央学院大学で刻まれている。
現在、社員665名、パートを含め約6,000名の従業員を抱える経営トップ。8年前に社長に就任したが、それまでは頑に断り続けていたという。父が人生を賭けて築き上げた会社。果たして自分が切り盛りできるのだろうか。そんな不安もあった。
「あるとき親父が『お前が継がないなら、会社を売る』と言い出して・・・。飲食はひとつの文化ですから、誰かの手に渡れば文化も変わってしまいます。そこで一番苦労するのは従業員たちです。それはできない「じゃあ、やります」と。
幹部会議で社長就任の挨拶をした日も印象的だった。
「いわゆる型通りの挨拶だったのですが、僕が席に戻るまで、幹部クラスがみんな立ったまま、ずっと拍手をしてくれていて。そのとき、『もう、逃げている場合じゃない。この人たちのために死ぬ気で頑張ろう!』と誓いました」

従業員の笑顔に救われた夜。先人への感謝を胸にさらなる発展へ

意を決し社長に就任した2年後、あのリーマンショックが起こる。同業他社の店も客足が途端に減った。長尾さんは資金繰りに奔走した。当時、新規出店も重なり、年間50億円の資金が必要だったという。金融機関を駆け回り、頭を下げ、資金を集めるものの、到底足りない。「もう駄目だ」と半ば覚悟したある夜のこと。
「疲れ果てて社に戻ると、併設する店舗の窓際の席にお客さんがびっしり埋まっているんです。そこに従業員が元気に応対している姿が窓越しに見えた。あの笑顔に本当に救われましたね」
お客さんのために生き生きと働くその姿に勇気づけられ、その後、いくつかの銀行から融資を取り付け、予定額を調達したという。
「会議ではキツいことも言ったりしますが、ここだけの話、僕は従業員にはまったく頭が上がらないんですよ(笑)」
和食の強みを活かしたおせち料理の受注も好調で、ここ数年、52,200食を完売しているという。また、海外へも目を向け、現在、ロシア出店を準備中だ。
経営者たる者は、ときに決断を迫られるが、長尾さんは何かを決めるとき、自問自答を繰り返すという。
「物心つく頃から“社長の息子”として周囲に育てられ、会社でも立場ができてくると、周りは何も言わなくなります。ですから、会社で右と言ったら、ウチに帰って左だと考えてみる。その繰り返しです」
誰のせいにするのでなく、自分と真剣に向き合うことで、最適な答えを導き出す。
「最後は自分の責任に置き換えないと、次の行動は起こせませんから」
若かりし頃、反発した父の会社。いま長尾さんは経営者として着実に歩みを進めている。
「先代や先輩たちが築いたいまに感謝しながら、いまある苦しみを乗り越える努力を惜しまないこと。この真摯な想いこそが、一歩先へとまた進むための大きな力です」

nagao02
●プロフィール
株式会社とんでん 代表取締役社長。
父・治氏が北海道・札幌市で1968年に創業し、8年前から社長に就任。
『大衆の中により深く 豊かで楽しい生活の提供』を経営理念に関東95店舗、北海道18店舗、日帰り温浴施設(北海道札幌市)を展開。
今後はロシアへの和食レストラン展開も計画中。

ロゴ

    【中央学院大学 学友会】

     〒270-1196
     千葉県我孫子市久寺家451
Copyright© 2014 中央学院大学 学友会 All Rights Reserved.